どうも、りょうかん(@ryokan_1123)です。
2019年2月23日に開催された「デザイン思考から考えるESDと環境教育」というESD学び合いフォーラムに参加してきました。
正直、このイベントに参加するまで『デザイン思考』や『ESD』という言葉をほとんど知らなかったんですが、参加したことで、持続可能な社会をつくるという意味では最近話題の「SDGs」との整合性は高く、まちづくりの文脈からも知っておくべき考え方がたっぷり詰まっている活動だと感じました!
「SDGs(Sustainable Development Goals)」とは、2015年9月の国連サミットで採択された国際基準の具体的行動指針で、『持続可能な開発目標』と訳されています。
というわけで、今日は「デザイン思考から考えるESDと環境教育」に参加した報告レポートをお届けします。
「デザイン思考から考えるESDと環境教育」とは?
今回参加したフォーラムは、環境教育や持続可能な地域づくりに取り組まれている方や興味関心のある方を対象に開催されており、教育者・指導者の視点での課題や教育的手法を共有していくことを目的に企画されたようです。
主催は「鳥取県地球温暖化防止活動推進センター」と「環境省中国環境パートナーシップオフィス(EPOちゅうごく)」と「中国地方ESD活動支援センター」の3社。共催で実施されました。
サブテーマは「持続可能な地域を育むには?」
このフォーラムでは、サブテーマに沿った5名(当日1名欠席)の実践者がゲストに招かれていました。
このゲストたちの事例を知り、持続可能な地域づくりの担い手を育成するための考え方を一緒に考えて共有していこうという主催者側の趣旨を感じ取ることができ、今回はその中でも、『デザイン思考』をベースに『ESD』を考えることに重きを置いたプログラムになっていたように思います。
そもそも『デザイン思考』と『ESD』って何?
しかし、『デザイン思考』や『ESD』と言われても聞きなれない人が大半だと思うので、簡単に説明をしておきます。
まず、『デザイン思考』とは以下のような考え方とのことで、メジャーな企業だと「Apple」や「Google」でも採用されていると言われているそうです。
デザイン思考(Design Thinking)
ターゲットの潜在的な課題を発見し、それを「Hou Might We…?(私たちはどうすれば〜できるか?)」という姿勢で、試行錯誤しながら課題解決を目指す探究型アプローチ方法。
また、『ESD(持続可能な開発のための教育)』は、世界中で取り組まれている教育理念のひとつで、2002年のヨハネスブルク地球サミットで日本が提唱した考え方らしいです。
ESD(Education for Sustainable Development)
持続可能な社会づくりの担い手を育成することを目的とした教育理念。環境・貧困・人権・平和・開発といった様々な地球規模の課題に対して、一人ひとりが自分にできることを考え、実践していくことを身につけ、課題解決につながる価値観や行動を生み出していく学習や活動。
フォーラムの会場は鳥取の中高一貫校「青翔開智」
ちなみに、今回のフォーラムは、鳥取市で初の中高一貫校として創立した「青翔開智」を会場に実施されました。
青翔開智は、学校としての教育方針の中心にデザイン思考をベースにした「探究型学習」を据えており、今回の会場としては適任だったんじゃないかと感じます。
交流ゲスト(講師)の紹介
ここからは今回の交流ゲストを4名紹介していきます。(具体的な事例の内容については後述します)
織田澤博樹|青翔開智中学校・高等学校 副校長
1人目は、会場でもある青翔開智の副校長・織田澤博樹さんです。2012年の学校設立時から従事しているんですが、前職ではキャラクタービジネスの世界でアンパンマンミュージアムの企画に参画していた経験を持っていると言います。
現在は副校長として学校経営に関わりつつ、教員としてデザイン思考をベースとした課題解決型の授業を展開することに力を入れており、今回はその事例を紹介してくださいました。
山本秀樹|元ミネルバ大学日本連絡事務所代表
2人目は、ミネルバ大学の日本連絡事務所の元所長・山本秀樹さんです。東レや3Mで、航空宇宙・自動車・電子部品・土木建築・スポーツ分野などの新規製品開発を経験し、またブース・アンド・カンパニーでは大手企業の経営戦略支援などにも携わっていたそうです。
今回のフォーラムでは、2017年まで務めていたミネルバ大学(Minerva Schools at KGI)の話を中心に事例紹介をしてくださいました。
山本さんのミネルバ大学の話をまとめた著書も発売されています。より詳しく知りたい方はぜひこちらを読んでみてください。
高橋敬子|立教大学社会学部教育研究コーディネーター(立教大学ESD研究所)
3人目は、立教大学社会学部教育研究コーディネーター・高橋敬子さんです。ドイツの自然保護センターでの研修をきっかけに環境教育に興味を持ち、小学生から大人まで対象にした様々なESD事業の企画や運営・研究に携わっています。
現在は、立教大学ESD研究所で、気候変動教育の国内外での研究や実践活動を行いながら、NPO活動として持続可能な地域づくりに向けた取り組みを地域住人とともに行なっているそうです。
中前雄一郎|サケの飼育放流プロジェクト代表(海洋調査船ヤング丸 船長)
最後に紹介する4人目は、海洋調査船ヤング丸の船長・中前雄一郎さんです。小学校の校長を退職後、漁師をしながら『サケの飼育放流プロジェクト』や『天神川の魚を守る会』『東郷池メダカの会』など、多くの地域貢献プログラムを手がけています。
このフォーラムでは、それらのプログラムについて紹介をしつつ、地域の人たちや関係機関を巻き込みながら環境教育を展開する秘訣を教えていただきました。
セッション1「青翔開智の取り組み紹介」
第1部では、副校長の織田澤さんに青翔開智の取り組みを紹介していただきました。
学校案内&見学
まずは織田澤さんの解説付きで実際に校舎内の見学をしていきました。最初は「BOOK BASE」と呼ばれる校内中央に位置する図書スペースです。
青翔開智では建設段階から『学校の中に図書館があるのではなく、図書館の中に学校があるイメージにしよう』と決めておられたそうで、生徒たちの探究心をくすぐる工夫が随所に見られました。
続いて、2階の教室を中心にして生徒たちが作成した成果物を見ながら実際の教室を見学していきます。壁が全てベニア板にされているのも、生徒が自由に押しピンで掲示ができるようにという配慮らしいです。
そして、ガラス張りで先生の様子が丸見えな職員室を見学して校舎を一周しました。この職員室の設計も、生徒と教員の心理的な壁を取り払うための工夫だと言います。
カリキュラム紹介
校内の見学をした後、実際に青翔開智で実施されているカリキュラムについて紹介をしていただきました。
いくつか説明をしていただいたのですが、特に印象的だったのが中学2年生で実施される『課題解決型職場体験』の話です。
多くの中学校で実施されている職場体験を一歩拡張させたプログラムで、働かせてもらった企業の課題を生徒たちが自ら見つけ出し、その解決のアイデアを考えるだけでなく、実際に社長にプレゼンテーションするまで実施しているとのことで、そこまでするのかと衝撃を受けました。
しかも、昨年はそのプレゼンが採用されて商品化するところまで実現したというから驚きです。
泊綜合食品(漬物販売業者)の実店舗での販売体験をした生徒たちが、「購入層が年配の方ばかりで若い世代が見向きもしないこと」を課題と感じ、若い人でも手に取りやすいように『インスタ映え』するカラフルならっきょうを販売してみてはどうか、と提案したそうです。
しかも、より提案に説得力を持たせるために、生徒自ら理科室にこもり着色料でカラフルにした商品をInstagramにアップして効果測定までするほどの徹底ぶりだったのだとか。
その甲斐もあり、提案が担当者の目に止まったことで商品化まで発展したと言いますが、その工夫のできる思考力自体に僕は驚きを隠せませんでした。
個人的なグッとポイント!
加えてもう一点、個人的にすごいと思ったカリキュラムを紹介しておきます。
青翔開智では高校3年生の卒業時に『修了論文』と呼ばれる個人研究を提出するそうなんですが、このクオリティが半端ではありませんでした。下手な大学生の卒業論文よりもはるかにクオリティが高いんじゃないかと思うほどのレベルの高さです。
参加者の中からは「受験を控えた高校3年の時期にこのようなしっかりとした論文を課すことに弊害はありませんか?」という質問も飛び出していたほどでしたが、織田澤さんの「既存の学習指導要領の範囲内でも十分に実施できますし、これからの時代に必要な教育だと信じて取り組んでいます」という言葉にも震えてしまいました。
セッション2「ゲストトーク」
続いて、第2部では、3名のゲストによる事例紹介に移ります。
まずは元ミネルバ大学日本連絡事務所代表の山本秀樹さんから、世界の教育動向やキャリア構築支援の取り組み、そしてミネルバ大学の仕組みなどを紹介していただきました。
世界で最も合格率の低い大学(2%未満!!)と呼ばれるミネルバ大学のことをこの機会に初めて知ったんですが、驚くべき特徴の数々にただただ圧倒されました。その中でも特徴的なポイントをまとめると以下の通りかなと。
ミネルバ大学の大きな特徴
・特定のキャンパスを持たない
・全寮制の4年生総合私立大学
・授業は全てオンラインで実施
・4年間で世界7都市をめぐる
・現地で課題解決型プロジェクトに取り組む
続いて、高橋敬子さんには研究者目線で気候変動教育の研究や学習活動の事例などの話題提供をしていただきました。
参加者と一緒に、実際の教育現場で用いるプチワークの実施もしてみたりと体感する学びが多い時間だったように感じます。
最後に、漁師や教師の経験をふまえて数多くの地域貢献プログラムを手掛ける中前雄一郎さんからは、それぞれのプログラムの紹介を中心に、それらの活動を持続可能にやっていくための秘訣を教えていただきました。
下の写真にも写っていますが、まとめると以下の通りです。
持続的な活動のために必要なこと
・相手を認めること
・楽しめる工夫をすること
・感動できる工夫すること
・問題解決できる活動であること
・次期リーダーの養成をすること
セッション3「ワークショップ」
最後の第3部では、ゲストの方々の内容の濃い話を聞いた上で、参加者それぞれが特に興味のある分野に分かれ、交流しながら学びを深めるワークショップが実施されました。
前の時間で紹介していただいた内容について更に深めて聞いてみたり、参加者同士での事例の共有、そして実際に取り組まれている活動での悩みなどを、各ブースで議論を深めていました。
実は第2部でのゲストトークが盛り上がった関係で時間が押し気味になってしまい、ワークショップ自体は予定より短めになってしまったので、参加者の中には「もう少し交流をしたかった」という気持ちもあったように感じます。ですが、限られた時間の中でも濃密な学びを共有できたのではないかとも思います。
まとめ
いかがだったでしょうか。
僕自身は知らないことも多く、事例を知れただけでも学びがたくさんありました。ゲストの顔ぶれを見ても、学校教育現場目線・グローバル活動目線・研究者目線・地域活動者目線とそれぞれ特色が異なっており、幅広い事例を知る機会にもなったんじゃないかと思います。
その一方で、事例が遠い存在すぎてどのように実践に落とし込んでいけばいいのかイメージが湧きにくいというアンケート結果があったとも聞きました。
また、第3部のワークショップの時間が短かったこともあり、参加者同士の交流に物足りなさがあったようにも感じます。(フォーラム終了後に多くの方が会場に残っていたのが印象的でした)
しかし、それ自体も参加者の方々の意識が高いことだとも思うので、今後もこのような学びを深めるフォーラムを定期的に開催してほしいという需要は高いように感じました。
そして、僕自身がそのひとりだったように、この記事をきっかけにESDやSDGsに興味を持ってくださる方がいれば嬉しいです。