どうも、りょうかん(@ryokan_1123)です。
リノベーションスクール@鳥取#2(以下RS)で提案された鳥取大丸屋上の庭園プロジェクト「まるにわ」がFAAVO鳥取で実施していたクラウドファンディング(以下CF)が、無事達成率124%の224万円(支援人数148人)を獲得して終了しました。
僕の経営する「Book Cafe ホンバコ」と同じくRSで提案されたこともあり、まるにわの主要メンバーはもちろん全員知ってますし、毎月第一土曜には「まるにわランチ」と銘打った公開ミーティングをホンバコの2Fで開催してくださったり、僕とは非常に関係性の高いプロジェクトです。
しかし、僕は今回のクラウドファンディングを支援しませんでした。
その選択に至った、たったひとつの理由を、綴ってみようと思います。
(この内容はまるにわメンバーの数人にも直接伝えてあります)
「まるにわプロジェクト』とは
「民間の遊休空間を公共的に利活用する」ことにより鳥取駅前エリアの魅力を高めようという目的で結成された一般社団法人。それがまるにわプロジェクト。
その活動の第一弾として取り組み始めてるのが今回のCFの趣旨でもある『鳥取大丸屋上の緑化プロジェクト』であり、芝生化を中心とした緑化を進めて鳥取大丸の屋上をみんなが活用できる「市民の庭」にしていこう、というのが本筋のようです。
今回のCFのページに書かれている内容をざっくりとまとめてみました。
・鳥取市近郊に暮らす30~40代にとっては思い出深い鳥取大丸の
・夏場のビアガーデン開催以外にはほぼ使用されていない屋上に
・芝生を張るなど環境整備を行うことで
・親子ワークショップやバーベキューなどのイベント開催が可能な
・百貨店屋上の新たな使い方が出来る場所として
・市民誰にでも開かれた空間に生まれ変えよう
概要はこんな感じです。細かい部分はFAAVOの記事を読んでください。
さらに言うと、現時点では補助金等の公的資金は使わずにメンバーの出資金やクラウドファンディングの調達資金などをベースに進めていくとのことですので、民間主導で公共的な空間の運営マネジメントを目指すという素晴らしい試みであることは間違いありません。
実現すれば「これからの理想的な公共施設・公共空間のあり方」の良い一例として全国的に評価を受けられるほどのポテンシャルを秘めたプロジェクトだと思っています。
なぜ支援しなかったのか
それだけ可能性を感じていながら、なぜ今回のCFで支援をしなかったのか。
理由は単純明解。「事業スキームの構築が不十分」だと感じたからです。
簡単に、6W2H(Why, What, Whom, Where, How to, When, Who, How much)を用いて説明してみます。
Why(なぜやるのか)
まず、まるにわメンバーが大丸屋上で今回のプロジェクトを行う必然性が不透明。「リノベーションスクールの案件だったから」という理由だけでプロジェクトを進めているのであれば、いつか空中分解するのが目に見えるので今すぐ中止した方がいいように感じます。
単純に考えれば「大丸(もしくは百貨店屋上の利活用)に強い思い入れがある」人が中心に進めてると思いきや、必ずしもその熱が伝わってくるわけでもありません。本来であればもっとも熱い想いを持っているだろう鳥取大丸の従業員の方がまるにわメンバーに誰一人いなかったのも不思議でした。(僕が以前に指摘した後、志ある従業員の方がメンバーに加わりました)
RSの大島芳彦さんの言葉を借りると『あなたでなければ、ここでなければ、いまでなければ』ならない理由が、外にはよく伝わってきていません。
What・Whom(事業内容は何で、顧客は誰なのか)
事業の詳細がイマイチ見えません。
CFのページを読むと「様々なイベントが開催できる空間に」と書かれていますが、実際にどんなイベントを、どんなターゲットに向けて、どのくらいの頻度で開催するのか、具体的にどこまで描けているのかわかりません。
話を聞くと、託児スペースやカフェなども考えているようですが…。
そして誰かが言ってました。「市民みんなの場」は「誰の場でもない」のです。
How to(差別化のポイントはどこなのか)
もし親子ワークショップをするとしたら、他の場所で開催されているワークショップと比較してどこに優位性を感じてもらおうとしてるのか。
もしBBQができるスペースになるとしたら、他のBBQ場と比べてここならではの独自性はどこにあるのか。
託児スペースを作るとしたら。カフェをするとしたら。謎は深まるばかりです。
Who(事業主体は誰なのか)
まるにわプロジェクトとしては「場所貸しビジネス」が主となるのでしょう。まさかイベント全てを自主開催し続けるスキームでは考えてはいないはずなので。
イベントスペースとするなら、借りる主体は誰でどのくらいの頻度で借りてくれるのか。託児スペースを作るのであれば、カフェをするとしたら、誰が事業主体となるのか。おそらく具体的な部分まで考えられてはいないように思います。
When(芝生化のタイミングはいつが適切か)
CFのページを見ると、7月中に芝生を植える予定になっています。
が、ソフト面が整っていない段階で、ハード整備をして芝の維持管理費などの固定費を生じさせることは、はたして適切なのか。僕には疑問です。
How much(売上規模・利益見込額はどの程度か)
イベントスペースとして稼働するとき、毎月の売上規模はどの程度になるのか。
託児スペースやカフェを併設したときに、賃料としてならいくらで貸すのか。売上変動制なら、それぞれどの程度の売上を見込めるのか。
またそれぞれにおいて固定費はいくらかかり、利益はいくら残すのか。
本当はここが一番重要なポイントだと思いますが、一番議論されていないように感じています。
どの順番で説明するのが良いのかわかりませんでしたが、言いたいことは伝わったでしょうか。
逆算方式・テナント先決め
そもそも、リノベーション事業においては、『逆算方式』『テナント先決め』がある意味では鉄則です。
逆算方式とは、売上高と維持管理費などの経費をしっかりと計算・検討した上で、残る利益を算出し、その利益額に投資回収年数をかけて初期投資金額を決定しようという考え方。
つまり、ハードへの設備投資と賃料設定をした上でテナント募集をしていた従来のやり方ではなく、テナントを先に決めて取り得るリスク(投資額)を設定するやり方が、縮退時代のリノベーション事業スキームの組み立て方だと言われています。
この『逆算方式』や『テナント先決め』の重要性は、リノベーションスクールプロフェッショナルコースで木下斉さんや嶋田洋平さんも語られています。
この逆算方式やテナント先決めの考えを今回のまるにわプロジェクトに当てはめると、こんな感じですかね。
1.イベントビジネスモデルの場合
自主開催の場合、根拠のある集客予想を元に売上高を算出する。
場所貸しの場合、実際にイベント開催をする主体を探して、払える場所代や開催頻度から売上高を算出する。
経費(運営費や芝の維持管理費など)と利益のバランスを見ながら、初期投資額を見積もる。
2.転貸ビジネスモデルの場合
託児スペースやカフェを誘致するのであれば、まずその事業を行う事業者を探して、その事業者が支払える賃料(絶対賃料)を先に決定する。
経費と利益のバランスを見ながら、初期投資額を見積もる。
んー、まだわかりにくいですかね?
この逆算方式で初期投資額を決定せずに、従来方式のまま「とりあえず芝を植えよう」「まず環境整備してから具体的なビジネスモデルは考えよう」という安易な考えが見え隠れすることに対して、僕は納得いっていないのです。
もっと言えば
細かい指摘をすれば、小さなツッコミどころはまだまだありますよ。
例えば、鳥取大丸の目の前にある「バードハット」との差別化はどう図るのかとか。
同じく芝生が張ってある市民誰もが使って良い、屋上よりもよっぽど人の目にも触れる場所がすぐ目の前にあるわけで、ハードハットを使い倒さずにわざわざ屋上に似たようなスペースを作る意味はどこにあるのか。甚だ疑問です。
あと、新規事業の立ち上げにCFのみを頼るのも良くないんじゃないかと。
僕自身も反省すべきなのですが、ホンバコの立ち上げでCFに頼った結果、事業性をきちんと意識し始めるのに半年近くの期間を要してしまいました。
『補助金に頼るな』とRSでは言われます。その本質はちゃんと事業としようということだと思います。CFに頼ることは事業性を問われないという意味で、補助金に頼ることと似てるのです。
やはり初期投資をほとんどかけない形で小さく始めつつ、金融機関に事業性の精査を受けながら融資を取ること念頭に置くべきだと思います。
CFはあくまでも事業性評価におけるイチ項目だと考えるべきで、その辺りはまるにわプロジェクトの代表・齋藤浩文さんは地元の金融機関「鳥取銀行」で勤めてるので、よくわかってるはずだと信じてます。
最後に
そんな想いで、僕は今回のまるにわプロジェクトのクラウドファンディングを支援しませんでした。
とは言え、目標額を大きく上回る224万円を148人の方から支援されたことは、それだけの人に「頑張れ!」と言われたということなので、本当にすごいことです!
逆に言うと、鳥取大丸で遊んだ記憶も思い入れもほとんど無い上にお金も出していない僕が、こんな形で口を挟んでしまい水を差すことにならないか、この記事の公開を少し悩みました……。
ただ、先述したようにこのプロジェクトは「これからの理想的な公共施設・公共空間のあり方」に一石を投じるポテンシャルが十分にあると感じています。だからこそ、もっとシビアに事業性を問うてほしい。モデルケースとして説得力のあるやり方を模索してほしい。
まるにわプロジェクトが今後も継続的に進んでいくために、この記事が少しでも役に立つと幸いです。
事業スキームがきちんと見えてきた段階で、何らかの支援をするつもりですし、これからも「まるにわプロジェクト」を応援してます!