「田川慶一郎」。この名前に見覚えのある人は、タイトルを見て驚いているかもしれません。
彼の名前は「釣り人」という言葉とセットで届けられることがほとんどでした。国内外(時にはアマゾンの奥地まで足を運び)で巨大魚を釣り上げる姿こそが、彼のトレードマークと言っても過言ではありません。
田川 慶一郎(たがわ けいいちろう)
1989年生まれ、鳥取市出身
ANDMORE(アンドモア)代表
しかし、そんな彼が今、ほとんど釣りをしていないらしい。信じられるだろうか。『釣りは洒落であるべきだ!もっと!スマートに!お洒落に!格好良く!』と活動していた男が、である。
人生を賭けていた「釣り」の時間を削ってまで力を注いでいること。それが「人材育成」と「まちづくり」だと言う。異色すぎる。分野違いすぎる。
しかし、彼は本気だ。リスクを負って、新たな挑戦に挑んでいる。
「マイエリアを意識して暮らす」というシンプルなメッセージから伝わるのは、彼の確かな鳥取への愛。そして……。
この記事は、田川慶一郎のこれまで光の当たってなかった側面に切り込んだインタビューの記録です。
(聞き手:りょうかん)
取材日:2018年6月13日
150人以上の鳥取のファンを作ってきた
── 今日はよろしくお願いします。早速なんですが、近頃釣りにほとんど行っていないと聞きました。最近は何をしてるんですか?
田川慶一郎(以下:田川) 今はカフェと集合住宅の大家をやってます(笑)。大家業をメインにやりつつ、前からやってるヒッチハイカーみたいな旅人の受け入れを今でも継続してやってる感じかな。
── 大家業!? そちらも気になるんですが、まずは旅人の話から…。今まで何人ぐらいを受け入れを?
田川 150人は超えてると思う。
── 150人!無償で泊めてるんですよね!?なんで続けてるんですか?
田川 鳥取を紹介したいという想いが強いからかな。だいたいの人が口を揃えて「鳥取砂丘しかないよね」と言うから、表面だけの鳥取だけを見て帰らせたらダメだと思って。
ちゃんと案内すれば面白い人も面白い場所もたくさんあるし、せっかくなら鳥取を好きになって帰ってもらおうと思ってやってる感じだね。
── 彼ら彼女らが鳥取を去るときは、鳥取の魅力をしっかり知って帰っていくわけですね。
田川 みんな帰るときには「鳥取ってこんなに面白いんですね!」と言ってくれるよ。だけど、細かい補助金から面白いプレイヤーまで揃っているのに、なぜ活かし切れてないのかと指摘されることも多い。
── それはなぜなんでしょう……。
田川 ひとつは「若いプレイヤーが活躍できる地盤が出来てないこと」があると思う。鳥取で何か始めたいという人には結構会ってきたし、すごくいい人材もいっぱいいる。だけど、並走しながら支援できる人がいない。金銭的なサポートをしてくれる大人も少ない。そういう人材も育てていかないと厳しいと感じるね。
── 打ち上げ花火のような施策も多いですし、気質のようなものもあるんでしょうか。
田川 街を作りたいのであれば、もっと長い目で見ないといけないと思う。
最近は尾道市や加西市の人たちと関わらせてもらう機会が増えてきたんだけど、まちづくり先進国だったはずの鳥取が遅れを取ってる気がしてて。他の地域の成功例を真似た施策だけじゃなく、鳥取で求められているニーズを鳥取の地盤を活かした形で昇華させられるような方法はないだろうかと。それを模索しているところかな。
エリアを意識して暮らすことが最初の一歩
── 大家業を始められたのも、「若いプレイヤーが活躍できる地盤」を作っていくための模索のひとつだったりするんですか?
田川 そうだね。今は鳥取駅の南側エリア(富安)を拠点にして、街を作っていくと言うより、自分たちの場所に人が集まりやすいようなシステムを作っていこうとトライしているところ。
── それでカフェや集合住宅の大家を…?
田川 そういうこと。自分たちが生活したり職場にしたり集っているエリアを意識することが、意識を変えるための第一歩として大事なのかなと思って。
── もう少し具体的に聞きたいんですけど、なぜ「エリアを意識すること」が重要なんですか?
田川 そうだな…。たとえば、マイエリア(自分のいるエリア)にある飲食店でお金を使えば、そのお店が潤る。お店が潤うことで、より良いサービスが提供できるから新たな人がマイエリアに来る。そうすることでエリア全体が潤っていく。
ひとりひとりがエリアを意識しながらお金を使うことで、エリア全体が良くなっていく。その実感を持てることが大事なんだと思う。
── なるほど。当たり前のことですけど、便利になった今の社会だと実感を持ちにくいことかもしれないですね。
田川 しかも、それって「お金」だけじゃなくてもいいと思うんだよね。たとえば、「時間」や「技術」や「人脈」だって、そのエリアの中で使う人が増えれば、それだけエリア全体にも還元されていくわけで。
── 時間や技術もか…!言われてみれば、お金以外でもエリアを意識して使うことで貢献できる形はありますよね。気づかなかった…。
田川 そういうことって大事だけど学校では教えてくれないんだよね。しかも、「鳥取市」みたいな大きなエリアだと意識しにくい。中心市街地でも広すぎる気がする。だけど、もう少し小さなエリアで考えるきっかさえあれば気づけることだと思う。
だから、富安エリアを拠点にその実験をやり始めてるところ。
── 田川さんのイメージしている「小さなエリア」って、どのくらいの規模感のことなんですか?
田川 町区かな。○○町みたいな町内の範囲。抽象的に言えば「コンビニのエリア感」ぐらいをイメージしてる。
── コンビニのエリア感。言い得て妙な感じがしますね。僕も関わりの深いリノベーションスクールでは、スモールエリアを歩いて回れる「半径200m以内」と定義することが多いですが、それに近い印象を受けます。
田川 そうなんだ。でも、徒歩5分圏内とかそんなイメージだよね。じゃないと自分が関わってる実感が持てない。
実現するには「時間」と「お金」が必要
── エリアを意識して暮らす人を増やすことで「挑戦しやすい土壌」を作り出していこうとしていることは理解したんですが、それを実現する道のりは果てしない気がします。次の施策は考えてたりするんですか?
田川 何かをやりたい人はいるけど、その人のやりたいこととエリアが求めてるニーズとをマッチさせていく「エリアマネージャー(調整役)」のような人が必要かなと思い始めてて。
そのエリアに住んでいる人・事業をしている人の想いをしっかり聞いて、エリアがより良くなるように考えていける人がいれば、想いが具現化しやすくなっていくんじゃないかなと。
── エリアマネージャーですか。鳥取市が公募している中心市街地のマウンマネージャーとも似てますよね?
田川 さっきの話じゃないけど、中心市街地だとエリアが広すぎるよね。タウンマネージャーというシステムをもう少し細分化して、エリアに特化したものをやっていった方がいいんじゃないかなと思う。
でも、そのためには「時間」と「お金」が必要なんだよね。
── 「お金」が必要というのはわかりやすいですけど、「時間」が必要というのは…?
田川 エリアに愛されるためには時間がかかる。そのエリアの人に「なんでやっているのか」「なんのためにやっているのか」を知ってもらってからじゃないと上手くいかないと思うから。
鳥取ってやっぱり田舎だからね。恩とか義理とか情が残っている。それを壊さずに地域に溶け込んでやっていこうと思うと、外からポッときたコンサルみたいな人じゃ無理。
── エリアの人に愛されるのに「時間」が必要ということですね。
田川 愛されるためには「拠点に根を張る」ということが大事になってくるからね。愛される存在になっていこうと思うと、やっぱり一定の時間は必要になってくるかなと思うよ。
── 確かに。では、もう一方の「お金」が必要という部分についても教えてもらえますか?
田川 単純に「○○がしたい」という人がいたときに、支援できる資金がないと実現させるのが難しくなる。あとは、エリアマネージャーへの報酬もないとダメ。ずっとボランティアでやり続けるわけにはいかないからね。
そう思うと、やっぱりお金は絶対的に必要。これは間違いない。
── 切り離せない問題ですよね。解決の糸口はありますか…?
田川 エリアマネージャーの報酬に関しては、たとえば「エリアに属する15個の事業者(飲食店中心)が1社1万円ずつ負担する」みたいな仕組みを考えてる。その代わりに、若手の教育や人材の紹介などを積極的にサポートしていくようなイメージ。
── 若手の教育…、とは具体的にはどのようなサポートを?
田川 わかりやすい例を出せば、学生バイトに対してお店の人が叱っちゃうと今の子はすぐに辞めちゃう。だけど、街のお節介オヤジみたいな人が代わりに叱ってくれると、辞めずに成長していく可能性は高いんじゃないかと。
街ぐるみで育てるじゃないけど、エリアマネージャーが率先してそういう役目を担っていくようなイメージかな。
── なるほど。先述の「エリアを意識させること」も含めて、エリアマネージャーに求められているのは「エリア全体で人を育てていく雰囲気を生み出すこと」ということなのかもしれないですね。
田川 そういうことになるのかな。でも、正直なところ、今は自分の持ち出し(資金投入)でなんとか回してる感じだから、お金の問題は早急に考えなきゃいけないとは思ってる。
だから、本当はエリアマネージメントをしながらプラスαでお金を生み出す仕組みも考えなきゃいけない。鳥取の地に根を張りながらマネタイズしていける人がほしいよね。
寂しいこともあるけど、向上心は忘れたくない
── 自腹を切ってでも鳥取の地を諦めない。偏愛とも呼べるほどのその愛はすごいですよね。なぜそこまで鳥取を愛し続けれるんですか?
田川 選んじゃったもんね、鳥取を。鳥取を選んじゃったから仕方ない。
死ぬまで鳥取にいるのかと言われたら人生何が起きるかわからないけど、今現在は鳥取を出て行こうという考えは微塵もないからね。いい仲間もいるし。どうせなら楽しい鳥取が続いてくれたらいいなと思う。ただそれだけでしょ。
── 意外な答えでビックリしました。でも、静かな覚悟を見ているようで清々しい気分です。
田川 でも、だからこそ出て行ってしまう人がいるのは寂しいよね。いい人から順に出ていく。そこはすごく寂しいですよ。
── それでも鳥取での歩みを止めない。田川さんを突き動かすものは何なのでしょう…?
田川 まあ、鳥取に来てくれた人・鳥取に興味を持ってくれている人がたくさんいるからね。本当に鳥取のために身を削って動いてくれている人がいるのも知っているし。
最近だと西嶋利彦さん(2017年春に福岡から移住)とかそうだね。彼とか絶対に福岡にいた方が活躍できる人なのに、わざわざ鳥取を選んでくれているわけじゃん。
── 確かに今までの鳥取にはいなかったタイプの若手ですよね。
田川 福祉の仕事のことや家族のこともあるのかもしれないけど、鳥取に魅力を感じて想いを持って残ってくれている。僕は彼から愛を感じるし、そういう人たちを大事にしていきたいから、簡単に見捨てたりはできないよね。
── 鳥取愛の源泉は「人」に行き着くのか…。以前ブログ記事にした『一緒に働く人の「幸せ」を一番大事に考えたい』という感覚とも似てるような気がします。
田川 それに、人と人の距離も近いし、山や海との距離も近い。色々なものの距離感がちょうど良くて、最初から小さなエリアにまとまっている。鳥取の「スモールタウン感」は本当に貴重だと思うよ。
── そう思うと、やはりエリアマネージャー的な存在は大きな役割になりそうですね。この大役を担う人材はどうやって発掘していくんですか?
田川 すぐに良い人材が現れるわけはないから、まずはもうちょっと議論できる場所(サロン?)を作ろうかと思っている。考えを話し合ったり深めたりするようなオープンな環境が理想かな。で、議論したことを具体化具現化していけるようなコミュニティが生まれてきたら、自然とその中からエリアマネージャー的な存在が出てくるんじゃないかなと。
── なるほど。トリの話しbaが終了した今、鳥取には議論できる場所は確かに少ないかもしれないですね。僕に協力できることがあれば今後も協力させてください。
田川 ほんと期待してますよ(笑)
── 最後にシメの一言をもらってもいいですか?
田川 向上心を忘れたくないよね。「 and more … 」だから(笑)
この記事を読んで彼のビジョンに共感を抱いてくださった方へ。
活動を支援するための「投げ銭箱」を用意しました。今後に向けて共感の輪を広げてもらえると嬉しいです。
文章:りょうかん
撮影:飯野 拓巳
会場:Camel0857
(この記事は、ANDMOREと協同製作した記事広告コンテンツです)